9,再び
捺は、バイトの面接に来ている。
カフェのフロアのバイトで、
制服を一目見て、気に入ったから。
それに、そろそろバイトをしないと、懐も寂しくなっていたので。
「週何日出れる?」
「3日は出れます」
「じゃぁ、早速明日から入れるかしら?」
「は、はいっ!!」
バイトの面接に受かった捺は、ご機嫌で家へ帰った。
玄関を抜け、階段を上り部屋へと続く廊下にさし当たった時、
ドアの前に隆文が、背をもたれて捺の方を見てい姿が目に入った。
「よぉ」
「・・・・・・」
あの事件から、家の中は学校ですれ違っても、
目も合わさず、隆文が何かを言おうとしてても
すぐに、その場から逃げる様にして
彼を避けていた。
いつものように、視線を合わせる事なく
部屋に入りたい所だが、
隆文がドアの目の前に立っているので、どいてもらわないと中へ入れない。
捺は、意を決して彼の目の前まで行くと、
目いっぱい睨み付る。
「そこどいてよ、部屋に入れないじゃない・・・」
しかし、一向にドアから離れる気配がない。
確実に彼の耳には、私の声が聞こえたはずなのに。
何か言葉を返してくる訳でもなく、
ただ、捺の顔をジッと見つめている。
深くため息をつくと、捺はドアノブに手を掛けた。
と同時にその腕を捕まれる。
「やっ・・・・離してっ!!」
抵抗して、その身を捩っても
腕を掴む力はビクともしない、
さっきよりも掴まれている腕がキリキリと悲鳴を上げた。
捺の部屋の中へと歩を進めると、
ベットへと捺を放った。
「キャっ!!」
すかさず、彼が覆い被さってくる。
「何で避ける?」
酷く低い声色に、背筋が冷たくなる。
怒気すら感じ取れる。
思わず瞑っていた目を開け、彼を見上げると、恐ろしい形相の彼と目が合った。
「別に避けてないわよ・・・話しはそれだけ?
分かったら、今すぐ離れて!」
「嫌だ」
「い嫌って・・ちょ・・・離れてってば!!んんーーーっ!」
抗議の声を上げた瞬間、彼の唇で捺のそれを塞がれた。
「んっ・・・ちょ・・」
捺の抗議も空しく、彼の口の中へ飲み込まれていく。
前にキスされた時と同じ感覚が
捺の中に湧き上がってくる。
背筋がゾクっとする感覚。
どれくらいの間キスをされていたのか・・
すっかり翻弄されていた捺。
その様子を見て、隆文は一旦唇を離すと
短いキスを落とすと、未だ余韻に浸っている
捺の顔を見つめる。
少し、間があったのち
捺の思考が現実へ戻ってきて
隆文と目が合った。
「な・・・なんで・・・キスなんてする・・・の?」
心なしか、震えているようにも感じる捺の瞳には
うっすらと涙が滲んでいる。
「・・・・お前が悪いんだ」
「・・・何でよ!私が何したって言うのよ」
「俺を避けるからだろ」
「避けてなんか」
”ない”
と言う前に、また唇を塞がれた。
「いいか、今度避けたりしたら、
こんなんじゃ済まないから」
そう言って、指を捺の首筋から鎖骨へと滑らせていく。
「っ!!!!」
一連の行動に、隆文が何を言っているのか
察した捺は、目を大きく見開いた。
その様子満足気に笑うと
ベットから体を起こし、
捺の部屋を出て行った。