7.
「では、これで解散します。お疲れ様でした」
この言葉の合図で今日の会議は終了した。
「それにしても親睦会で2泊3日旅行はすごいね」
「ほんとーー、でもすっごく楽しみ!!」
親睦会は2泊3日で那須へ行く事になった。
今私と慎吾くんは鞄を取りに教室へ向かっている。
ガラッ・・
「ひゃぁーー、もぅ誰もいないし・・・」
結衣は「お先に〜」と言って先に帰ってしまっていた。
今の時刻は20時まで、あと10分。
すっかりと艶黒の空へと移り変わってしまった。
早く帰らなきゃ・・・
「小川さん、家まで送ろうか?」
「えっ!?」
突然の慎吾の提案にびっくりする。
「で・・でも・・悪いよ!私は1人で大丈夫だから」
「だって、すっかり暗いし危ないから、それに俺と小川さんの家、同じ方向だしさ。
だから全然平気だよ?」
「あ・・・う、うん・・・」
”じゃぁ、お願いしようかな”と言おうかと思った時に
捺は思い出した。
私、今実家に住んでないじゃん!!
よく良く考えてみる。
私の実家と居候中の家は、正に正反対の方向だ。
「えーーっと、、やっぱりいいや。
私、ちょっと寄って行きたい所があるし」
慎吾くんは少し考えた風の後、
「その用事ってすぐ終わるの?」
「う、うん・・・ちょっと本屋に寄るだけだけど・・」
「じゃぁ、俺も行っていいかな?ちょうど欲しい本があるんだよね」
捺はますます返答に困ってくる。
ひぇーーーーーーっ!!!
どどどどどうしよう・・・・
こんな事なら・・・・素直に言った方が良いよね。。。
「本屋に寄りたいのもあるんだけど・・私、今両親の友人の家に居候中なの。
慎吾くんと反対の方向だから・・・送ってもらうのはさすがに気が引けちゃいます。。
だから、えと、本屋さんまでで大丈夫です・・・」
「え、居候中なんだ?」
「・・・うん、パパが海外勤務に急になっちゃって、
ママも着いて行く事になったの、それで私は高校に入るのが決まってたし、
残る事になったんだ」
「そうだったんだ」
「うん」
慎吾くんは、少しびっくりした表情をしていたけど
すぐに、柔らかい表情になった。
「じゃぁ、本屋まで一緒に行こうか」
その問いに捺は元気よく”うんっ!!”と答えた。
「捺ちゃん、お帰り〜」
「遅くなりました」
「お夕飯出来てるから、着替えて下りてきてね」
「はーい♪」
部屋に入り、制服を脱ぐと部屋着に着替え下に降りた。
ダイニングを見ると、2人分の料理が並んでいて、
隆文が座っているのが見えた。
「あんたも今から夕飯?」
隆文はテレビを見たまま
「ああ」
相変わらずの態度に、捺もすっかり慣れてきた今日この頃。。
「こんな時間になるまで、何やってたんだよ」
相変わらず視線はテレビのままに質問をされる。
「え?何って委員会だけど?まぁ・・その後本屋には寄ったけどさ」
「ふーーん」
高揚の無い声に思わずムッとなる。
自分で聞いておきながら、なんだそのトーンの低さは。
まぁ別に、どーでもイイですけどーー。
「あいつも一緒だった訳?」
「へ?」
隆文の質問がいまいち良く分からず
素っ頓狂な声を上げてしまった。
「だから、あいつだよ、
ほら、杉山だ」
「ああ、慎吾くんね。
うん、一緒に本屋まで行ったけど?
最後まで送ってくれるって言ってくれてたんだけど、
家は反対方向だったし、アンタと同居がバレたら嫌だし」
そう・・・本屋で別れる時にも
”危ないから”って行ってくれるのを
丁重にお断りしたんだ。
本来なら、家まで一緒に帰れたのになーー。
でも本屋まででも一緒に行けた事だけでも、
私はすっごく幸せだったけど。
思わず、顔がニヤけてしまうのは仕方が無い。
「アイツってお前の何?」
「え?何って?」
いつの間にかテレビから視線を捺へと移していた隆文。
捺の胸がドキンと音を立てた。
だってあまりにも、真剣な表情で私を見てたから。
「付き合ってるのか?」
「はぁ?!・・・んな訳ないじゃん・・・」
そうなれたら、私だってどんなに幸せか。。
そんな捺の様子に何かを感じ取った隆文が続ける。
「へぇーーーなるほどね」
その声に、夕飯のおかずを食べていた捺の顔が隆文を見た。
「・・・何よ・・・そのなるほどってのは」
隆文はニヤリと意地悪く、その顔に微笑を貼り付けた。
「おまえ、あいつに気があるんだろ?」
「なっ!!!!!」
捺の顔が一気に真っ赤に染まる。
「へぇーーなるほどね・・・それで俺と一緒に住んでるのも
知られたくないって訳だ」
捺は口をパクパクして、もはや金魚と化している。
「そ・・・そんな訳ないじゃない・・・」
どうにかこうにか、搾り出した声は実に頼りない。
「どこが良い訳?あの男の?」
グッ
捺、反論せずに耐え抜くのよ!
「顔?まぁ確かに整ってる訳じゃないけど悪くないな
かと言って良い訳でもない」
何言ってるのよ?
私の中では慎吾くんはカッコイイわよ!ダントツよ!!
「あーゆうタイプに限って、本性出すと別人の様になるんだよな」
・・・・・・
やめてよ。
彼はそんな人じゃない。
捺の中で、沸々と怒りが沸いてくる。
「あの笑顔の裏では何考えてるんだか」
「やめてよっ!!!!!」
ついに捺の堪忍袋の緒が切れた。
「お願いだから・・・彼の事良く知りもしないのに
そんな事言わないで!!!」
今までの怒りの表情を遥かに超えた
捺の表情に、隆文は僅かに目を見開いた。
だが、それもすぐ元の表情に戻る。
「へぇーー、認めるわけだ?アイツが好きだって」
「だったら、何?」
そう言った瞬間、隆文の目がスッと細められた。
「どこが良い訳?」
そう言って、捺の方へとゆっくり歩を縮めてくる。
「ど・・どこって・・・」
ただ事では無い風の雰囲気で
捺へと向かってくる隆文に
少しばかりの焦りを感じ
1歩、捺へと近付くと同時に、
捺も1歩、後ろへと後退していく。
この動作を繰り返してた後、
何かが背に当り後退出来無くなった。
ヤバイ。
「ひゃっ」
ついに捺との距離が数センチの所まで
彼が来てしまった。
両手を捺の顔を挟む様に壁に付く。
「なぁ・・どこがいいの?」
逃げ道を完全に無くしてしまった捺に
追い討ちを掛ける様に
屈み込んで、捺と視線を合わせる隆文。
「全部よ」
今この状況に、動揺している事を悟られまいと、
気丈に返す捺。
「俺のがいい男じゃん?」
その質問に捺が毒付く
「はぁ!?何言っちゃってるのよ?
あんたなんて顔だけじゃん!!顔だけ!!」
「へぇ・・それって顔はアイツより勝ってるって事?」
「女の子達の反応を見る限りではそうなんじゃない?
でも!ワタシは・・・・・んっ」
”そうは思ってないんだから”と言う言葉は口の中に飲み込まれていた。
それを発した捺の口では無く、隆文の口の中で。
BACK TOP NEXT