4.


今日は高校の入学式、私はいつもより、ちょっと早起きをして肩から腰の間くらいある髪をセットする。
制服のスカートも膝より少し高くしてみる。なんだかプリーツが揺れる度にくすぐったい。
今まではメイクをした事無かったけど、今日は背伸びしてグロスを付けてみた。


「制服オッケー、髪型オッケー、ん、完璧」
一通り身だしなみにチェックを入れると、早々に家を出た。

家の駅から学校のある駅までは4駅。
電車を降り、改札を抜けると聞きなれた声が聞こえてきた。

「捺〜〜」

「あ、結衣(ゆい)おはよ〜」



橋野 結衣


彼女は幼稚園から一緒で、無二の親友である。
今日から3年間、高校も同じ。

結衣は私を発見するなり
「キャー、今日の結衣は、一段と可愛いわ」
そう言って、ぎゅぅっと抱きつかれた。

「何言ってるの?結衣のが可愛いに決まってるじゃない」

結衣は、本当に可愛い。可愛いっていうよりも美人。

「何言ってるのよ。捺は本当に可愛いんだから」

鈍感ね。なんてため息混じりに言う彼女の声はすでに捺には聞こえてなかった。
捺の思考はすでに違う所へと移ったから。


「あ・・・結衣、結衣!!」

「ん?どうしたの?」

「前見て、慎吾君がいる」

私は興奮気味に言う。

彼は私達の数メートル先を学校に向かって歩いている。

「ほぉ〜、学ランだと、今までと違って新鮮ね〜」

コクコクと勢い良く頷く私。

うぅ・・朝から慎吾君に会えるなんて嬉しすぎる
学ラン似合ってる。カッコイイ。


「挨拶しなくていいの?」
ふいに結衣に言われた。


「ああああ挨拶なんて・・・きき・・緊張するよ・・・うん・・・いい、いい」
ブンブンと思い切り首を左右に振る。

もぅ見てるだけど幸せいっぱい。胸いっぱいでございますぅ〜。



「そう?もったいないわね」

なんて言ってた結衣だけど、ふと何かを思い出したかの様に口を開いた。



「そうだ、どうよ?居候の家は」


「ああ・・・おじ様もおば様もとてもいい人だよ・・・」


私の声のトーンの低さに、結衣が反応する。

「その割には、トーン低いわね」


彼女は私が昨日から居候ししている事を知っている、ただ1人。

「大した事じゃ無いんだけど、そのー息子がね・・ちょっと・・・」


「ふ〜ん。どんな奴?カッコイイ?」


「ん、顔は確かにカッコイイけど、、性格に難アリ・・・かな」

「仲良くできそうなの?」


「無理無理!あんな奴。。一生仲良く出来そうにも無いわ」


あんな失礼極まり無い奴・・・。
昨日の事思い出しただけでも・・・むかつく







「でも良かったよーー。結衣と同じクラスで」

「何言ってるのよ、あんたが本当に嬉しいのは杉山と同じクラスだからでしょーが」
コツンと軽く、ど突かれる私。


「そんな事ないよーー。そりゃぁ一緒のクラスになれて、めちゃめちゃ嬉しいけど、
結衣と同じクラスになれた事のが嬉しい」

エヘヘ〜〜〜。


思わず顔がニヤけてしまうのは仕方が無い。


「はいはい良かったわねー。ほら入学式始まるから体育館に行くから
そのだらしない顔、何とかしなさい」


「・・・・はぁい」


体育館へと移動し、校長の挨拶も終え

「次は新入生代表の挨拶です」
とアナウンスが流れる。


新入生代表かぁーー。
この学校で、試験の結果が一番良かった人って事だよね?

って事は、都内でも優秀な人って事か・・・。


どんな人なんだろ?

なんて思ってると、アナウンスが再び流れる。


「新入生代表、菅野隆文」



・・・・・


ん???


この名前・・・・何処かで聞いた事がある様な・・・?



程なくして、新入生代表と思われる人物が教壇の前に立った。
ざわっと一瞬、騒がしくなる。
ヒソヒソ声が所々で聞こえてくる。



「あ、あぁーーーーーっ!!!!!!!!」
何でコイツがこの学校にいる訳?!

しかも何で、教壇の前?



バッ!!!

思わず大きな声で叫んでしまった私の声は
嫌でも、静かな体育館内に響き渡ってしまった訳で・・・

周りの視線が、一気に捺に集中したあげく
先生からも「そこの1年、うるさいわよ」と注意を受けてしまった。



ボッ!!
我に返って、顔が真っ赤になった。



うぅぅっ・・・・穴があったら入りたい。。。






入学式が終わって、教室に戻って来て私はまた叫んでしまう。

今私の目の前には、例のアイツがいる。


「あああんた。。。この学校だった訳?」

「そうだけど?つかお前もこの学校だったんだな。馬鹿では無い訳だ」

へぇ、

なんて口角を上げて皮肉たっぷり、嫌味をいうコイツ


・・・我慢よ、捺!!
コイツの挑発に乗るな!!
堪えるのよ


「・・・で菅野君は何でこのクラスにいるの?まさか同じクラスなんて言わない事ないわよね?」

「あ?ここは俺のクラスでもあるんだよ」


「げぇっ、何でクラスまで一緒・・・・」

捺の顔が歪む。


「まっ、そーいう事だから」



そう言って、席に戻っていった。







「・・・・で、何であんたが私の席の後ろなのよ・・・」


「苗字の始まりが、「お」と「か」だからだろ?」

そう言って呆れ顔で私を見てくるアイツ。。。
まるで馬鹿かお前とでも言いげな顔して。


私は無視を決め、席に座った。





今日は初日って事で、ホームルームをして終了。
担任が教室を出て行くと、
私は結衣の席へと行った、彼女の第1声はコレだ。


「菅野君って、捺の知り合いなの?」


「あいつ・・居候先の息子・・・」


「えっ!?そうなの?」


「うん・・・」


結衣も、さすがに驚いている様子。


「ふ〜ん。確かにカッコイイわね。新入生代表の挨拶でも目立ってたし、ありゃモテるわね」


「あんな奴、顔だけじゃん。」

「はいはい。捺は杉山しか眼中にないもんね」

「うん」

真っ赤になっちゃって可愛い。なんて結衣に、からかわれていると話題の張本人が現れた。


「小川さん、同じクラスだね」



「す杉山くん?・・・あ・・・うん・・えと、また1年間よろしくね」


「よろしく」なんて笑顔で言う彼に、捺の心臓はキュンっとする。



「そこ2人の世界に入らない。杉山・・・私の事忘れてない?」
結衣の言葉に、慎吾くんは少し笑って
「忘れてないよ。橋野さんもよろしくね。じゃぁまた明日学校で」

慎吾君は教室を出て行った。


「話しかけられちゃったぁ〜」
また明日だってぇ。。。ウヘヘ。嬉しい。

もぅ、慎吾くん。最高。



「捺・・・顔ヤバイよ・・・」


結衣の呆れ返った声が聞こえた。



そんな私達2人を様子を、少し離れた所から見ていた人物がいたなんて、
これっぽっちも気が付かなかった。