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沙希が会社を出たのは、19時を過ぎた頃。
現在の時間は20時まで後、5分
すっかり遅くなっちゃった。


会場になっているお店の扉を開けたーーー
ーー室内をざっと見た所、30人程はいるだろうか。
まずは、弥生を探すべく、人の合間を縫う様に進んでいく。


あ、いた。


「沙希〜、こっち」
弥生も気が付いたみたいで、私に手招きをしている。
弥生の隣に行くと、ボーイが寄ってきたので
「キールロワイヤルを」オーダーする。

「沙希ったら、遅かったじゃない」

「ーーこれでも急いだのよ?」

すると、背後から声を掛けられ、後ろを振り返る。

「おーー、藤宮と吉川じゃん」

「大橋くんじゃない!久し振り〜」

彼の登場によって、周りの人も久し振り〜と
一気に寄ってくる。


「藤宮は相変わらず、ベッピンやの〜」

すでに酔っ払っているらしい、大橋くんの言動に
高揚の無い声で、"どうも"と一言だけ返す。

そこに、先ほど注文したキールロワイヤルをボーイさんから受け取った。

「では〜〜、藤宮も来た所で改めてーー乾杯!」
「乾杯〜」

大橋くんの音頭で、皆がグラスを高々と挙げた。
乾杯の音頭の後は、懐かしい顔馴染み達と、2〜3言会話を交わしたりする。

「沙希って何の仕事してるの?」だとか
「彼氏いるの?」だとか。

いないって答えると、皆、露骨に驚いた顔されて、
逆に私が驚いちゃったし。

更に"彼氏いない歴3年よ"と言うと、慰められた。



会話にも、疲れてきて
食べ物取りに行ってくると言い、騒がしい中から抜け出した。
お腹空いてたんだよね。

ズラっと並べられた、数々の料理達を、
お皿に、少しずつ取っていく。

その時、誰かが隣に現れた。
そして、その人物を確認して、沙希の鼓動が跳ねる。

「−−−谷・・ちゃん」

「藤宮さん、久し振り」


6年振りに会った彼は、昔の面影を残しつつも
落ち着いた風で、上質だと女の目でも分かるスーツをスマートに着こなしていた。

「久し振りねーー元気だった?」

「あぁ、この通り、藤宮さんも元気そうで」

「まぁーーこの通り」

上擦りそうな声を何とか押さえ込んで、
高揚の無い声を出してみる。
微笑を顔に浮べながら。

すでに2杯目のカクテルに口を付けようとした時、
彼がグラスを軽く上に挙げた。

「え?」

キョトンとして首を傾げる私に、彼が”カンパイ"と言う。

「あ、ーーカンパィ」


「仕事何してるの?」と聞かれ
「ケー・コーポレーションで働いてるの。重役秘書ってとこかしら」

「へぇ〜、すごいな」
彼が関心したように言った。


「谷ちゃんの方がすごいんじゃない?普通のサラリーマンには見えないわよ」

「俺?俺は大した事ないよ。中田製作所の商品開発部にいるんだ」

「中田製作所って・・・・あの世界の!?すごいじゃない!!」

「そうかな」


「ええ、内定を貰うのも難しいって聞いたわよ」

彼はニコッと微笑むと、料理を皿に取っていく。


それにしても、そんな有名企業に就職していたとはーー。

暫し、彼の横顔に見惚れてしまう。
あーー、ちっちゃい顔に、優しそうな目や薄い唇。
全然変わってない谷ちゃんに、思わず頬が緩む。
背は大きくなった?一体何cmあるんだろ?

「178」

「はぁ?」

不意に言われた数字に、頭の中がハテナになる。

「身長」

途端に私の顔が、紅く染まる。


「えっ!?えっ!?」


「クスクス」

"口に出てた"と言われ、ますます私の顔は真っ赤になった。
それを見て、谷ちゃんが吹き出す。


「そーいう所、変わってないね」
と言われ、私の顔は真っ赤から、訝しげな表情になる。

「何が?」

「いや、変わってなくて嬉しいよ」


上手く、逃げられた気がするけれど・・・気のせいかな?


「谷〜久し振りだな」

私達の間に内門くんが、入ってきた。
その横には、弥生もいる。


内門利夫(うちかどとしお)くん。
彼の親友だ。
中学から高校と一緒だったと思う。

暫くの間、男同士の会話が炸裂し、
内門くんが私の方を向いた。
今気が付いたかのように。

「あ、藤宮さん、久し振り」

「どうも」

ニッコリ笑って、内門くんに挨拶をする。

するとーーー

何て言うか、、、何?
何で顔が紅くなってる訳・・・?


「どうしたの?」と言うと、内門くんは
「あ、いや・・・変わらないね〜」と言われた。

谷くん同様にーーーはぐらかされた?


「うふふ・・・さっそく内門、充てられたわね」
と弥生が意味不明な発言をする。

「何が?」
私は、意味が分からずに弥生に聞き返す。


「あんたのその笑顔は、悩殺モンなのよ」

「はぁ?!意味分かんないし」


「あんた、中学、高校と現在進行形で、マドンナって言われてたのよ」


「・・・・・・何それ・・・・」

マドンナ?
マドンナって・・・何だったかしら?
首を傾げている私を見て、クスっと笑うと。

「いいのよ。分からなくて、それでこそ沙希なの」

何とも意味不明な事を言われ、私は、これ以上考えない事に決めた。


「はい。じゃぁ1次会は此処まで〜〜。2次会はありません」
と大橋君の声、2次会ないんかいっ!!と思ったけれど、
後は、好きな人と自由にどうぞって配慮なのだろう。


名残惜しいけれど、そろそろ帰るかと思った私に
弥生が話し出す。

「内門と谷山、この後暇なら、私達と飲みに行かない?」

えぇ〜!?
「ちょ・・・、私明日も早いし、そろそろーー」

と言い掛けた所で、遮られた。


「沙希、アンタ何言ってるのよ?私達は明日休みじゃない」

うっ・・・ですね。。


「俺らも明日休みだし。飲みに行くのは構わないぜ?な?谷?」

「ああ」

「じゃっ、決まり♪」



私の意見は聴きませんってか。



※※※※※※※※※※※※

場所を移して、今は六本木のバーに来ている。
店内にはダーツもおいてあり、学生っぽい人や
会社帰りのスーツをきた社会人で賑わっている。


ーーーで何故か、ダーツで勝負して
負けたら罰ゲームらしい・・・・。

3人と比べて、私ダーツやった事無いんですけど?

的目掛けて、矢?を投げるが・・・
今の所、1本も的の中に入らない。。。

何だか、イライラして、お酒のペースが一人早い私。


あ・・・なんかまずい・・・。酔ってきたかも・・・。


「は〜い、終了♪罰ゲームは沙希ね」

罰ゲームの内容はこう、だ。
1位の人がビリの人に命令する。

んで、1位はなな、なんと弥生。
2位に内門くん、3位が谷ちゃん、でビリに・・・もう言うまでもないだろう。


弥生が不適な笑みを、こちらに向けているのが、
堪らなく恐ろしい・・・・・・。


「ビリの人が〜〜〜〜〜」


「ビリの人が!?」
内門くんが楽しそうに、弥生の声に乗っかる。


「3位の人に」

「3位の人に?!」

あぁ〜、もぅ止めてほしい・・・・。
2人の意気投合に、恨めしい視線を送り続ける


「うふふふふ」

弥生の気持ち悪い笑いに、釘をさす。

「気持ち悪い・・・」


「何か言いました?沙希チャン?」

うっ。。。こ、怖いっ


「イエ・・ナニモ・・・・」

「キスする♪」

「ブハッ!!!」

私は、思いきり飲んでいたお酒を吹き出す羽目になってしまった。


「はぁぁ〜〜〜!?」


一気に酔いが冷めたわよ。
あまりにもビックリしてね。
ホラ!!見てみなさいよ!谷ちゃんなんか、石の様に固まっちゃってるじゃないっ!!
ここは・・谷ちゃんの為にも私が頑張らなくてはーー


「絶対無理!」

私の抗議に彼女は、表情を崩さない。

「ダメよ。沙希。罰ゲームはしっかりとやらないと〜」

「なっ!嫌だ!谷ちゃんだってこんなの嫌に決まってるじゃない!」
ねぇ?同意を求める様に、谷ちゃんをチラっと仰ぎ見る。

が、何か真剣に考えてる感じで、
その後、彼とは思えない言動をする。


「俺は別に構わないけど・・・・」


「・・・・・・え?」


ええーーーーーーーっ!?

アタフタとうろたえる私とは対照的に、落ち着いている彼。


「あああああの・・・谷山くん?」

「ん?」


「こんなのタダのゲームなんだしさ・・・そんなに真剣に・・・、真面目にやらなくて良いんだよ?」

私のこのセリフを聞いて、弥生が口を開く。


「何言ってるのよ〜。バツゲームも真剣なゲームよ。タダのゲームだと言うんなら
キスだって出来るわよね?」


うっ・・・

「罰ゲームを破棄した場合ーーーーーー」

「・・・・・・・・・・・・場合?」

あぁぁぁ〜、聞く事が恐ろしく怖い・・・・。


「私の仕事、全部沙希に回す」


「ええええええ〜〜〜〜っ!?」


自分の仕事でさえ、消化するのに手一杯なのに、
弥生の仕事まで、私に回ってきたら1日24時間あったって終わらないわよ!!


「どっちがいい?」

悪魔の囁きに、私はーー折れた。


「谷ちゃん・・・ごめん」


意を決し、谷ちゃんと向かい合う。


「いよっ!!キ〜ス♪キ〜す♪」

背の高い谷ちゃんには、つま先立ちしても届きそうにない。

えぇ〜い!!女は度胸!!!

私は、彼の襟元に手を掛け、グッと引き寄せ、
急な衝撃に、驚いた表情の谷ちゃんの唇に
チュッとキスを落とした。


一瞬だけ触れ合った唇。
内門くんと弥生が囃し立てる。


私は、彼の顔をまともに見れなくなり、
席に座ると、まだ口を付けていなかったグラスを一気に仰いだ。

きっと私の顔は、これ以上ない程に真っ赤だろう。
谷ちゃんも・・赤かったような。




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