「藤宮、資料は出来たか?」
「はい、出来てます」
上司の声に、目線も合わせずに出来上がった資料の束を手渡す。
「う〜〜ん」
自分の仕事が一息付いた所で、一つ大きく伸びた。
「沙希〜〜、お昼行こう」
私の名前は、藤宮沙希(ふじみや さき)
26歳、某外資系企業で働いている。
彼氏いない歴3年・・・・。
一人身を謳歌中。
で、今声を掛けてきたのは、吉川弥生(よしかわ やよい)
彼女とは中学からの親友である。
長身でスラっとした脚線美の持ち主。
加えて、美人である。
私達は、会社を出て、最近新しく出来たイタリアンのお店に来ている。
内装もお洒落で、料理の評判もとても良い。
運ばれて来た料理を黙々と食べていると、弥生が口を開いた。
「昨日、中学の同窓会のお知らせが来てたんだけど、沙希の所にも届いた?」
「あ〜、まだポスト見てない」
「来週の金曜に、中学の同窓会開くらしいわよ?」
「へぇ〜中学かぁ〜。・・てか急だね。また・・」
「勿論、沙希も参加するわよね?」
「え〜〜、あんまり人が集まる所って好きじゃないしなぁ」
高揚の無い声で、私が言う。
「谷山も来るらしいよ」
「ふ〜ん、そうなんだ」
弥生の口から出た名前に、自分の胸が若干高鳴る。
谷山 透(たにやま とおる)くん。
沙希が中学1年から高校1年まで.想いを寄せていた相手である。
高校は別の所を希望してた為、中学校生活最後のバレンタインの時に
思い切って、チョコを渡した。
でも結果は、受験生ゆえ勉学に励みたいって言う彼からの返事。
まぁ、用は振られたって事だ。
別々の高校に行ってからも、私と彼の高校は、校庭からお互いの学校が目で見えるくらいの距離で、
いわば、目と鼻の先ってヤツだったから、通学時や帰宅時に、時々ばったり偶然ってのもあった。
短大に行くようになり、電車の中でも時たま彼と同じ車両に乗ってるって事もあった。
相手も私に気が付いていたのは確か。だってチラチラとこっちを伺う様にして
見てくる度に、私達の視線は合ってたはずだからーーーー
でも、私はバレンタインの事も有り、自分から話し掛ける事が出来なかった。
今思えば、意識しまくってたんだと思う。
高校に入れば、それなりに私にも彼氏は出来て、
付き合ってる時は、それなりに相手の事を好きだな〜って思ってた。
でも、やっぱり心の何処かで谷ちゃんの事は忘れられない自分がいたのも確か。
そのまま大人になった私の心の片隅には、やっぱり谷ちゃんの存在は今でも、根付いてるのだろうか。
「ーーーしましょ」
弥生の声で、飛んでいってた私の意識が現実に戻ってきた。
「え?」
私の返答に、弥生は訝しげな視線を送ってくる。
「もぅ、聞いてなかったの?現地まで当日一緒に行こうって言ったのよ」
「あぁ・・うん」
無意識に、うんと返事をしてしまったけれど、
同窓会かぁ〜。
その日、帰宅してポストを覗いてみると、1通のハガキが届いていた。
そのまま、玄関の鍵を開け家に入ると、リビングのソファに、どかっと深く座り込む。
そして、徐にハガキを眺めてみる。
同窓会のお知らせ
日時:9月14日(金) 18:00〜
会場:「アフリカ」目黒区目黒○ー○F1
会費:8000円
「は〜ぁ」
沙希は一通り文字に目を通すと、ため息を付いた。
谷ちゃん来るって行ってたな・・・。
人混みは嫌だけどーーー。
やっぱり、6年振りに彼に会いたいなと思う。
どんな男性になっているのかが、気になるとでもいう所だろうか。
よし、行こう。
私はそう決めて、そのハガキを無意識にギュっと握りしめた。
※※※※※※※※※※※※
「沙希、終わった?」
終礼のベルが鳴った後、弥生が沙希のデスクに来る。
私は、皆がぞろぞろと帰宅しているのにも関わらず、
デスクに座り、パソコンと睨めっこしながら、キーボードを打つ手を止めずに答える。
「まだ、明日の会議に使う資料が出来上がらないの、悪いけど弥生、先に行ってて?」
弥生は、軽く息を吐くと"分かった"と言い、先に会社を後にした。
"ちゃんと来るのよ?"と釘をしっかり刺して。
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