4,
谷ちゃんに促されて、一歩足を踏み入れた店内は
こじんまりとしているけれど、とても洗練された空間になっている。
個室へと案内され、彼と向かい会う様に座り、
おしながきを手に取り眺める。
「食べたいのがあったら、遠慮なく」と言われた。
「う〜ん・・・・あ、じゃぁ・・銀杏焼きとまぐろの炙り焼きを」
すると彼は、手を上げ店員さんを呼ぶと私が希望した品に2〜3品加えて注文をした。
しばらくして、注文したビールが運ばれてきた。
かんぱいをして、ビールをすする。
あ〜やっぱり、仕事の後のビールは最高!!
一人、感慨にふけってしまう私。
「秘書に仕事してるって言ってたけど、どう?」
と聴かれる。
「秘書って言っても、そんな格好良い仕事じゃないかな・・・ほとんど雑用係りって感じだし」
「へ〜、重役って誰の秘書なの?」
「副社長よ」
「すごいな〜」
と言われてしまった。
「そうかな?」
「うん、副社長ってさ幾つ?」
その質問に、私は記憶を辿る。
「え〜っと・・・確か29歳・・・だったと思う」
「若いな〜」
「そうかもね」
すると、彼は少し話しずらそうに声を出す。
私は、彼を見て首を傾げた。
「その・・・さ、やっぱり言い寄られたりするの?」
「・・・・は?」
私の間抜けな声に、彼が言葉を紡ぐ。
「いや・・・藤宮さん綺麗だしさ、モテるだろ?」
彼から出た言葉に、私は思わず笑ってしまった。
「アハハ!!全然綺麗じゃないし・・・・それに言い寄られた事なんて一度も無いわよ」
そう、そりゃもう・・・寂しいくらいにね
そこに、注文した料理が運ばれてきた。
「うわぁ〜〜〜、おいしそう」
私は、並べられた料理に釘付けになる。
彼は苦笑しつつ、食べようかと言ってくれたので
「いただきま〜す」と、まずは銀杏を一口食べた。
「おいっし〜♪」
たかが、銀杏、されど銀杏よ!!
お皿も盛り付け方もお洒落で、銀杏が高級に見えるってすごくない???
おいしい料理に、おいしいお酒を飲んで最高
「藤宮さんて今彼氏はいないの?」
と聴かれ、私の意識が料理から谷ちゃんへ戻る。
「私?いないよ〜」と答える。
すると、彼はびっくりした表情になる
「え、マジで?」
「?うん、マジで」
信じられないと言うような彼の表情に、私の首が傾いていく。
「え、、なに?」
「あ、いや・・・ほらさ・・昔、その〜彼らしい人と一緒にいる所を見掛けた事があったからさ」
その彼の質問に、今度は私がびっくり顔になる。
「それってさ・・・いつ頃の話し?」
「えーっと、3年くらい前だったと思う」
「ーーそう・・・確かに3年前だと彼氏はいたわね・・でもそれ以降は彼氏いないんだよね〜」
ますます彼の顔は、信じられないという表情になった。
ふんっ、どうせ私は彼氏いない歴3年よ、言い寄ってくる男もいないわよーー
「そういう谷ちゃんこそ、彼女いないの?」
と聴いてみる。
「俺?全然いなかったな〜、高3の時1人付き合った子がいたけど、すぐ別れたし、後にも先にもそれっきり」
「ほんとに〜?谷ちゃんモテるでしょ?」
「う〜ん、告白は何度かされた事もあったけどさ、付き合う気になれなかった」
「・・・ふ〜ん」
って事は・・・高3の時から彼女いないって事は・・・何年彼女がいないんだろう?。
今、26歳で・・えっと高3だと18?だから・・・1.2.3,4・・・・
私は、指折数えてみる。
その辿りついた答えに、私は驚いた。
ウソ〜〜〜〜ん!!
彼の話しの通りだと、8年もの間、彼女がいない事になる。
私は、焼酎を口に運び、チラっと谷ちゃんを見てみる。
途端、私の心臓がドキドキと騒ぎ出した。
な・・・んで・・・そんな目で見てるの?
お互い目が合ったまま、暫く動けずにいた。
どれくらい、見つめあっていただろう
彼が口を開いた時、追加で注文した料理が運ばれてきた。
私は、つい今しがた流れていた空気が破られ、少しホッと胸を撫で下ろす。
それからは、彼と他愛もない話しをして私達は店を後にした。
で、今彼の車に乗り込み私をマンションへと送ってくれているようだ。
普通に、飲酒運転ですが・・・・この際良い事にしてしまおう、うん。
車中は、行きよりも、なんだか息苦しい雰囲気だ。
きっと、BGMが流れていない所為だろうと思いたい。
「そろそろ、藤宮さんの家の辺りだと思うんだけど」
静寂を破るようみして聞こえてきた彼の言葉に、ふと窓の景色を見る。
「あ、えっと、突き当たりを右に曲がるとグレーのタイル貼りのマンションが見えると思うから・・・」
少し車を走らせると、すぐに私のマンションが姿を現した。
そして、マンションの脇に車を止める。
「今日はありがとう、ごちそう様でした」
「こちらこそ、楽しかった」
”じゃぁ、、おやすみなさい”と言って、ドアを開けようとした時、
「今度はいつ空いてる?」と問われた声に
「えっ?」と彼を振り返り、見た。
「今度?」
思わず聴き返した私の言葉に”うん”と彼が答える。
ーーーーーその表情は、さき程見せた表情と同じものでーーーー
私の心臓が、また騒ぎ出した。
「・・・・・え・・っと、休み前とか、土曜日なら・・・」
「じゃぁ、来週の金曜にまた。会社の前で待ってる」と言われた。
「うん・・じゃぁ・・・また金曜に」
ドアを開け、車から出た。
「おやすみ、藤宮さん」
「ん、おやすみなさい」
私の声を聴くと、彼は微笑んで、車を発進させた。
私は、彼の車が見えなくなった後もしばらく、放心したように突っ立っていた。
どうしよう・・・私、谷ちゃんにセカンド・ラブかも-----
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